山行報告


【山域・山名等】

南アルプス仙丈ヶ岳三峰川・岳沢

【日時】

2001年01月04日(木)夜行〜08日(月)

【メンバー】

山下眞一・白根 武(戸台より仙丈ヶ岳サポート 鈴木真理子・鎌田 実)

【ルート】04日(木)あざみ野(22:00)〜(26:00)双葉SA
 05日(金)双葉SA(08:30)〜(10:30)南沢出合(11:30)〜(17:00)岳沢越え(幕営)
 06日(土)岳沢越え(07:20)〜(13:30)F4下〜(16:00)二俣F6下(幕営)
 07日(日)二俣F6下(06:30)〜(11:30)F8上〜(13:30)大千丈岳〜(19:30)北沢峠(幕営)
 08日(月)北沢峠(08:00)〜(11:00)戸台〜(13:00)南沢出合〜高遠〜横浜

【詳細】01/04(木)晴れ
   夜10:00あざみ野駅集合、車にて高遠を目指す。しかし、正月暴走の余波で中央道八王子インターを入ったとたん渋滞。 相模湖インターまで2時間もかかり途中の双葉SAに車を入れ寝てしまう。

  
 01/05(金)晴れ後時々曇り
   明るさとうるささで目を覚ますと08:00だった。SAでお腹一杯朝食を食べ08:30出発。小淵沢から一般道を走り高遠に 着いたのは10:00だった。雪の残る美和湖のほとりを三峰川沿いに奥へ車を進める。中部電力の車が入っているらしく、 道路の雪面には轍がしっかりと刻まれている。丸山谷の入り口に車が一台止めてあった。どうやら先行パーティーがいる らしい。南沢の入り口に着いたのは10:30だった。
 身支度をして11:30出発。南沢を詰める林道には15cmほどの新雪があり、正月の南岸低気圧によって降った雪を覆って いる。先行パーティーのトレースを追いかけ順調に進む。1・2度沢を徒渉して1時間ほど奥にはいると沢の右岸の広く なったところに便器が3個並んだトイレ跡が出てくる。どうやらここが飯場跡のようである。そこから10分ほど両岸の岩 場が迫って狭くなった所を抜け出ると急に開けて二股となる。左側の開いた谷が本流だが沢そのものはすぐに狭くなって しばらく行くと15mほどの滝になる。右岸を高巻くが土が凍っていて悪い。アイゼンを付けるべきだったと後悔したときに はすでに落ち口の高さにいた。バイルを土に打ち込んで何とか突破する。落ち口上に降りるところにはお助けシュリンゲ が残置されていた。この後もつるつるの涸れ滝など、ちょっと苦労させられる部分が出てくる。正面の支尾根が近づいて 開けてきたら右側の支流に入る。沢はだんだん急になり倒木や大岩をヒーヒー言いながら越えて行くと水が涸れて谷は左 に曲がる。急なガレ場を登るうちに右側に尾根が近づいてくるが藪が濃くて入ることが出来ない。一度藪こぎを試みたが 結局ガレ場に戻って2100mラインの末端まで詰めて灌木帯に強引に突っ込む。とにかく東側の斜面に出ればよいのだが、 日没となり樹林帯の中は暗くて行動が危険なので尾根の平坦部で幕営となる。17:00行動終了。

  
 01/06(土)快晴
   07:20出発。樹林帯の急斜面を谷に向かって下降する。30分ほどで三峰川に出る。太い倒木が多いが穏やかな流れだ。 下流に向かいしばらく行くと左岸から岳沢が流れ込んでくる。岳沢の河原は広く、出合は幕営に最適だ。
 岳沢にはいると雪が吹き溜まっていてラッセルがきつくなり先行パーティーのトレースが有り難くなってくる。 しばらく行くと先行パーティーがビバークした跡があった。まだF1手前だがラッセルしながらだと一日でこの辺なのだろ う。さらに雪が深くなり時々膝位までに達するようになった頃F1に到着し、ハーネスやガチャを出し身支度を整える。 氷が薄かったが二段になっていたのでノーロープで上がる。F1はV級程度だが落ち口の氷が特に薄く岩を叩いてしまう。 F1上はまた雪が浅くなったが、しばらく河原を行くと再びだんだん雪が深くなり右へ曲がるとF2が見える。 F2には先行パーティーが取り付いていた。先行パーティーのセカンドを追い上げるようにF2を越えると目の前にカー テンの様に氷柱を垂らしたF3が現れた。デカイッ!左端は50mの垂直の氷柱。右に行くほど低くなっている。氷の発達が 今ひとつなので右側のルンゼから巻き、上段の氷のナメに取り付くことにする。このルンゼのラッセルは急な上に腰まで 有り先頭を交代したがさっぱり進まない。結局、再び先頭を取られF3の登攀は彼らが先になった。急な灌木帯と草付き をトラバースし上段の氷に取り付く(途中に残置ハーケンが2本あり)。2ピッチを快適に登るとすぐにF4となった。
 この時点で01:30であり、F5上の二俣での幕営を決定する。快晴の青空、遠くにくっきり見える中央アルプス、 そんな中先行が登るのを見ながら日向で行動食を食べているとほのぼのとしてくるが、F4は結構立っておりリードする 白根は緊張気味。荷揚げを考えたが、上部がすっきりしていないので荷物を背負ったままのリードとなる。02:00に先行 パーティーのセカンドが抜けるのを待ってスタート。やはり荷物が重くて苦労しているようだ。プロテクションにスナー グを使っている・・・(スナーグの回収はセカンド泣かせ)。視界から見えなくなってしばらくして「ビレー解除」の声。 セカンドなので墜落の心配はないが、こちらの荷物にはテントも入っていて少々重い上にスナーグを回収しなければなら ない。気合いを入れると共にハーネスにフィフィをセットした。「行きまーす」のかけ声と共に取り付く。5手も登ると 80〜85度になるが荷物が多いので重心は外に出ていて90度以上の所を登っている様な前腕の負担である。「ウッウ〜!重 力がキツイ」唸りながらプロテクションを回収して行く。スナーグの回収ではガッチリ決めたバイルにフィフィをかけて 回収する。フィフィ様々である。登って行くと氷面に血が飛び散っている。どうやら先行パーティーのセカンドがバイル を抜くときに顔面にぶつけたようだ。滝の落ち口はマッシュルーム状の氷で登りにくい。白根は15mほど奥の岩壁の残置 ハーケンでビレイしていた。
 F5は半分雪に埋まった滑滝だが、先行パーティーがラッセルを嫌がって左岸の岩場を行っていたのでそちらに入って みた。しかしこれが良くない。10cmほどのフワフワの雪が積もった岩場はアイゼンで立つための岩の割れ目は見つけられ ないし、ちょっと緊張する高さまで巻いているしで、ラッセルをした方がよっぽど楽だった。落ち口のチョックストンを 越えると二俣だった。まだ04:00で先行はF6に取り付いていたが、我々はこの先テントを張る場所が確保できないので ここにテントを張る。
 二俣はなかなか快適で正面に恵那山や中央アルプス南部の空木岳等が広がっている。快晴の夕映えの中で飯田の町を遙 か遠くに望みながらキジを撃つのも良いものである。早くテントを設営したのでゆっくりと夕食を取っても6時くらいで ある。先行パーティーはどこでビバークするのだろうか?上部からは7時過ぎまでコールする声が聞こえていた。天気予 報では昼くらいから雨または雪とのことなので、翌日は出来るだけ早く出発することとして寝る。

  
 01/07(日)晴のち曇りのち吹雪
   早く寝たのと、今日は何としても天気が崩れる前に仙丈ヶ岳を越えなければならない緊張感から5時に起きてしまう。 ゆっくり食事をしたがそれでもまだ6時で外は真っ暗である。しばらくグダグダして、06:30に出発した。F6は起きが けの登攀なので取りあえずロープを付けて行くが、V−程度でロープは不要だった。2段2ピッチでF7へ。F7は傾斜 も緩く簡単な滝だがビチャビチャと水が流れている。落ち口を踏み抜いて一瞬くるぶし上まで水に入ってしまう。靴の中 に大量の水が入らなかったのが不幸中の幸いだった。F7上まで来ると「ソーメン流しの滝」F8の全容が見える。先行 パーティーのトップが3ピッチ目を登っているところだった。F8は確かにデカイ!でも全体的に傾斜は緩く、バーチカ ルと言われる3ピッチ目も段々になっていて何とかなりそうである。(勿論、何とかするのはトップの白根だが・・)
 白根はすぐに取り付きたがったが、セカンドが苦労しているらしく氷がバラバラと落ちてきて取り付けない。しばらく ゆっくりして先行パーティーが抜けるのを待つ。しばらくして落氷が少なくなったので取り付く。1ピッチ目はバックロ ープで30mほど登りビレイ点を作る。2ピッチ目でロックハーケンが4本も効いているテラスへ。テラスはきれいにならさ れ周囲には小キジの跡があった。どうやら先行パーティーはここでビバークしたらしい。こんな所でビバークするのは何 処かを狙っていて、そのトレーニングで入っているパーティーなのかも知れない。(F3で話をしたときには無所属との ことでした。)問題の3ピッチ目は近づいてみると氷の発達が今ひとつだが結構しっかりしている。おそらく氷がもっと 発達すればバーチカルになるのだろう。ロープの流れが悪くならないようにいったん反対側の岩壁にトラバースする。さ すがになかなかの高度感である。反対側の岩壁には残置ピンが無かったので、スクリュー3本でビレイ点を作り、そこか ら最終ピッチへ。昨夜立てた作戦では10:30までにF8を抜ける計画だったが、実際に抜けたのは11:30だった。
 F8の上は雪が少ないときはテントを張るのに良さそうな所である。ここからはさほど難しい滝は無い。50mほどラッセ ルするとテラッとしたF9(25m)。さらに50mほどラッセルするとF10(2段40m)。F10は遠目に見ると立っているように見 えるが、下段と上段の間で右岸から支流が入っていて上段が少々ねじれている。そのため、上段の左壁側は浅いルンゼ状 になっていて意外と傾斜はない。この先も80mほどラッセルの後F11となる。F11手前には左岸側に支流が入っており先 行パーティーはこの支流を上がったようだ。それもそのはずF11はジャバジャバと水が流れておりどうも登攀意欲が湧か ない。でもここでようやく先行パーティーのトレースから解放されて自分たちのトレースが付けられるため奥まで詰める こととする。F11から上は小滝が連続しているが、おおむね雪に埋まり全体として所々に段のある大きな氷のナメになっ ている。しっかりした氷なら良いのだが、雪の上に1cm位の氷の殻をかぶった状態だったり、雪の下に水が流れていたり とグチャグチャである。そんなところを100mほど登ると奥の二股になり、左に入ると2m位の段になった氷を登ってガレ場 になり氷は終了。ここで、上の稜線を登って行く先行パーティーを見つけた。1時間差位か・・・。
 ヒーヒー言いながらガレ場を登っているとついに雪が降り出してきた。気圧の谷が仙丈ヶ岳にかかったのである。急が ないと吹雪になってしまう。何とか大仙丈ヶ岳に着いたのが03:30だった。恵那山どころか中央アルプスまですっかりかく れ、風と共に雪が強くなってきた。無線交信を試みるが鎌田からの応答はなく、飯田盆地から「気をつけて下さい」とコ ールが入る。やはり仙丈ヶ岳を越えないと交信は無理な様である。出発する頃には風が強くなり、すぐ近くの仙丈ヶ岳す ら見え隠れするようになってきた。仙丈ヶ岳到着は04:30。風が強く写真を1枚づつ撮っただけで山頂を後にする。小仙丈 ヶ岳までは時々対風姿勢をとる必要があるような状態で歩が進まない。低気圧の本体は日本海側にあるらしく猛烈な南東 風である(この時点では分からなかったが、実際は日本海と東海沖に低気圧のある二つ玉低気圧でした。)。05:00に小仙丈 ヶ岳との中間地点辺りで無線交信をして、鎌田と連絡が付く。無線が通じると言うだけで何となく安心した。彼らは北沢 峠にいるとのことなので、われわれも何とかそこまでたどり着くために頑張ることにする。稜線上も大分雪が積もり始め たがトレースは下の雪が堅いので足の感触で何とかルートを見つけながら下る。とっくに日没になっているのだが、月が 比較的大きくなっているので薄ボンヤリと遠くも見え心強い。小仙丈ヶ岳を越えかなり下た所で樹林帯となり風から解放 される。樹林帯の中はトレースもしっかりしているのでどんどん進めるが、そろそろ疲れてヘロヘロになってきた。何し ろ今日は6時半から行動しているのでそろそろ12時間行動だ。下るのもイヤになるほど疲れ、2度目の休息をとったとこ ろで無線交信をすると後10分くらいの所らしい。暖かい飲み物を作ってくれるように頼み、元気を出して歩き出す。北沢 峠着はその5分後の19:30だった。
 暖かな紅茶がウマイッ!!しばらくへたり込んだ後、鎌田・鈴木に手伝ってもらいテントを設営し転がり込む。水をも らい夕食を食べたのはその1時間後だった。その間出るのは「やれやれ」と言う言葉と安堵のため息ばかりだった。 (鎌田・鈴木組からは3リットルも水をもらい感謝、感謝・・・)

 01/08(月)雪のち曇りのち晴れ
   一晩中雪はサラサラと降り、積雪は30cmになっていた。08:00にテントを撤収して出発する。1時間ちょっとで丹渓山 荘着。途中の双児沢は水がさらさらと流れ、全然凍っていない。冷え込みが余りきつくない上に秋の長雨の影響で水量が 多いようである。帰りがけに鎌田・鈴木のアイスクライミングトレーニングをする予定でいたが、丹渓山荘前でも本谷の 奥へはトレースもついていない様なので、舞姫の滝をあきらめる。積雪の状態によっては丸山谷に止めてある山下の車を 回収するのにかなりの時間がかかるので先を急ぐことにする。途中、歌姫の滝のある支流(歌宿沢)もザーザーと音がし ていて凍っている気配がなかった。
 11時頃には戸台の駐車場に到着する。このころには空も晴れて日が射しまるで3月の山行のようになっていた。長谷村 は道路の除雪もなされ走行に支障がない。三峰川林道もそうだと良いのだが・・・(どう考えてもその可能性が低いが)。 市野瀬、宇津木と奥に入って行くに従い雪が深くなってくる。林道にはいると・・・。しめた!乗用車が入った轍がある。 所々腹を雪面に擦りながら入った跡である。これが丸山谷まで続いていれば御の字である。祈りながら轍をトレースすると 小瀬戸峡を越え丸山橋まで続いていた。そう言えば入山の時に丸山橋のたもとにカリブが1台止めてあった。あれが先行 パーティーの車だったのだろう。
 山下のデリカは南沢出合まで入れてあるので、ここからは丸山林道を500mほどラッセルで入る。途中鹿の群が林道を横 切り移動しているのに出会った。ノンビリとスノーハイキングを楽しむとこんなシーンにも出会うようだ。雪をかぶった 車にたどり着き、雪かきの後靴を履き替えエンジン始動。ガソリンエンジンは寒くても簡単にかかるから楽だ。エンジン が暖まるまでの間車内に置いてあったウィダー(ゼリー状のエネルギー補給食)を飲んだらシャリシャリのシャーベット 状態だった。さすがにデリカは雪道に強い。何と言うことなく林道を下り丸山橋で鎌田車に合流。白根と荷物を受け取り 高遠のサクラの湯に向けてまっしぐら。
 4時まで入浴の後杖突峠を越え諏訪ICから中央自動車道へ。何処まで雪があるのかと思ったら、結局横浜の港北区ま で雪があった。雪のせいか渋滞もなく帰浜。お疲れさまでした。

  
  ◆なんだかんだと先行パーティーのトレースに助けられた山行だった。それだけに充実感は今ひとつだったが、もしトレー スがなかったら敗退していただろう。それだけ正月の南岸低気圧による降雪は多かった。
◆氷の状態にもよるが、どうしてもロープが必要なのはF3、F4、F8くらいなのでノーロープで速攻にした方が良いか も知れない。ただ、F11から上のナメは落ちるとかなりのダメージを受けるのでロープを付けた方がよいかも知れない。
◆何にせよさらなる軽量化が必要である。荷物を背負ってのアイスクライミングは1ランク難しくなる。


('01-01/16)