山行報告

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【山域・山名等】

前穂高岳北尾根・北穂高岳東稜・滝谷ドーム中央稜

【日時】

2004年08月12日(木)夜行〜08月18日(水)

【メンバー】

CL古関正雄・鎌田 実・橋本真和・金子恵一・石綿健一・井上徹三・山下眞一

【ルート】
13日(金)沢渡〜涸沢
14日(土)涸沢〜前穂高北尾根〜奥穂高〜涸沢
15日(日)涸沢〜北穂高東稜〜涸沢
16日(月)涸沢〜滝谷〜涸沢
17日(火)停滞
18日(水)涸沢〜沢渡
【詳細】 08/13(金)
   朝4時頃沢渡着。少しの仮眠後荷物を整え、タクシーで上高地へ向かう。6時頃上高地着。家族旅行できた幼少の頃の思い出とは違い、 えらく開けたリゾート地という印象。古関さんについていき、登山届を提出。準備後涸沢へ歩き始める。道中は快適で、まさに森の慈 しみを一杯に浴びて歩いている感じ。明神はそれほど印象に残るものは無かったが、他、一本を取った徳沢、横尾はとても気持ちいい 場所だった。13時過ぎ涸沢着。
 秘境と思っていた涸沢は、相当に整備された場所だった。ちょっとがっかり感はあったけれど、それはそれで快適。テントを張って、 井上さんのおごりビールで乾杯した。雪渓で冷やしたビールはなんと格別なものだろう。井上作絶品キムチ鍋を囲み、一日目の夜は 過ぎた。19時就寝。

  
  08/14(土)
   3時頃起床。昨晩のキムチ鍋をおじやに朝食を済ませる。天気良く、気持ちいい山行が期待できる。ハーネス、ヘルメットなど装備を 身につけ、5時頃井上さんと5.6のコルへ歩き始める。通常の年ならば雪渓歩きとのことだが、ほとんど消滅していて尾根歩きと変わら ない。私たちの前に1パーティが歩いている。
 5.6コル着で一本立てる。金子だけフラットソールに履き替え。事前に、北尾根に関する情報は本などで収集していたつもりだった。 初心者向けのクラシックルートで、快適なクライミングを経験できる、というのがどの本にも共通した記述で、私自身も、初心者ルー トだからなんとか怖さもなくいけるでしょう、と考えていた。そんな感覚で5.6コルから一見した5峰は凄いナイフリッジで、己の認識 を改めざるを得なかった。おいおい、大丈夫かいな、そんな感じ。しかし、登りはじめるとたいしたことは無く、踏み跡もしっかりし ていて一般ルートと変わらなかった。5峰ピーク着6:45。
 5峰ピークに到着した辺りから雲行きが怪しくなってきた。5峰ピークから4峰とのコルへ降りる。4峰から3.4コルへはトラバースが 怖い、とのことだったが、幸か不幸かガスっていて下が見えず、高度感をそれほど感じなかった。しかし、岩がどれも浮いていて、 つかむ岩がどれも崩れるようでえらくびびってしまった。
 3峰を見上げる3.4のコルで待機、前方に古関さんと蒲田さんのペア、その後に1パーティいて私たちは三番目。ロープを出して登る。 チョックストーンの所で戸惑ったり、岩が崩れそうで怖かったりはしたが、おおよそ快適に登れた。2峰から前穂頂上へのコルへは懸 垂下降で降りる。
 12時頃前穂頂上着。初めての前穂高頂上は全く展望がきかず残念だったが、「穂高」の「北尾根」を登れた、という満足感で一杯だ った。井上さん、ありがとうございました。
 一本立てた後、早々に吊尾根経由の奥穂高へ向かう。雷鳥さんも見られた吊尾根だったが、とにかく長く、だるかった。ほうほう の体で奥穂頂上へ登り、休む間もなくザイテングラードを経由し涸沢へ。涸沢がだんだん近づいてきて、ああ、何とか帰ってこられ たなぁ、長かったなあ、とほっとすると、うちらのテント辺りから「ヨカッタァー」の声。あれはとっても、涙が出るくらい嬉しか ったです。16:30頃涸沢着。
 その晩は岳連の牧野さんも我がテントを訪問してくれて、飲めや歌えやで楽しい酒宴となった。しかし、食事当番の私が精魂込めて 作ったフォー風変わり鍋が思いのほか大不評で、枕に涙して床に就いた。

  
  08/15(日)
   翌朝は雨。テントに侵入してきた水に体を濡らして起きた。朝食後、「今日は停滞だなあ。朝から飲むか。」などという滞留組 に後ろ髪を引かれつつ、6時涸沢を発つ。上高地着9:30。
 ラッキーなことに、10:00新島々行きのバスがまだ空いていて、スムーズに松本へ。松本の信州会館で一風呂浴び、ビールと酒、 それに橋本さんから教えてもらった鱒寿司を買い込んで臨時のあずさで帰路についた。   (ここまで金子記)


(ここより橋本記)
 4時前にフライを打つ雨音で目覚めた。今日は昨日から引き続き雨となり、外へ出てもカールの内部以外はザイテングラードさえ も見えず、テント内は失望と同時にまったりとした空気に包まれている。隣のツェルトの太田さん・野田さんに大丈夫ですかと声 をかけると「ダメ〜」の声。テントの中では太田さん、野田さんよりも一足先に下山しようとしている金子さんが朝食を取り、パッ キングをはじめている。その隣で井上さんは早くもビールを口にしている。金子さんにつづいて太田さん・野田さんが下山。 私たちはのんびり朝食をとり、トイレに行き再び眠りについた。
 9時、誰となく皆が起き、外へ出てみると雨が上がっている。古関さんが「北穂東稜にでも行くか、、、それともお酒を飲んでド ドンパか、、、」と投げかける。「行きましょう」ということでいざ準備。
 身支度を整え10時半頃涸沢出発、のんびりモードの体には北穂への急登が体にこたえる。11時半頃北穂沢のトラーバース点到着。 先行パーティーが鈍速での登っていくのがみえる。ガレ場を注意深く進みながら、取り付きへ。ここからルンゼを登り稜線へ出ると 広めのテラスがあり、そこで登攀具を一応装着、フラットソールへ履き替える。時計は12時ジャスト。
 鎌田さんトップで私がセカンド、しんがりは古関さんといったオーダーでおしゃべりをしながら登っていく。先には槍ヶ岳、 下に屏風、後ろにはGW雨に泣かされた北尾根がきれいに見える。高度感は思ったよりもなく、浮石も少なく、展望を楽しみながらの お散歩といった感じ。「こりゃパラダイスだな」と古関さん。まさにここで缶ビールでももってきてビバークしたら素敵な夜を迎え られそうである。
 ゴジラの背手前でザイルを出している先行パーティーに先に行かしてもらう。いよいよゴジラの背。心地よい高度感で、左足を大 きく空中に上げながら鎌田さんに写真をとってもらう。続いて東稜のコルへクライムダウン。古関さんから「ザイル出すか?」と聞 かれるが、ここでザイルを出したなんて先生が聞いたら「おまえもまだまだだめだな」といわれるだろうし、仮にここで落ちるくら いならクライマーの資格はまったく無いと思ったのでザイルは遠慮することに。ホールドとスタンスはすこしはなれている箇所が1 つあったがコルへ到着。フラットソールのままガレ場、最後の岩場と進むと北穂小屋のテラスがみえてくる。あっさり登攀終了。14時。
 後片付けをしているとお父さんと縦走にきているらしい若い女の子が彼氏らしき人と携帯で電話をしている「私今すごいところ にいるんだよ、360度の大展望・・云々・・」。 確かに槍ヶ岳、富士山、八ヶ岳すべてがみえる。古関さんが会話をしていたが、この女の子家は波田町のスイカ農場とのこと。 稜線は流石に風が強く、寒い。明日登る予定のドームをしっかりと目に焼き付けて下山。
16時涸沢のテント着。井上さんがビールを買出しして待っていてくれた。本当にありがたい。

  
  08/16(月)
   3:00起床 4:40涸沢テント場発
 新幹線を使って駆けつけた谷川岳南稜は豪雨に流れ待ちに待った初めての「本番」、緊張と興奮で昨夜はあまり眠れなかった。 登攀具をザックに入れ、ヘッドランプをつけてテントを出るとまだ薄暗い空には星が出ていた。今日は晴れらしい。 今日下山する井上さんに見送られ、涸沢をあとにし、涸沢小屋の脇から北穂への縦走路を鎌田さん先頭で歩き出す。汗も噴出すが、 入山から3日目、体が山に慣れてきて足取りは軽い。縦走路の先にはヘッドランプが2パーティーほど見える。同業者だろうか?
 日の出を迎え、陽光がようやく涸沢カールのふちを照らしだす頃には縦走路の鎖場基部で小休止。鎖場を過ぎると縦走路も勾配が 増し、ぐんぐん高度を稼ぐ。前穂北尾根、吊尾根〜北穂東稜、屏風といった穂高連峰を縁取る岩稜が朝日を浴びて美しい。常念山脈、 遠くには富士山、八ヶ岳等がきれいに見える。途中、昨日北穂東稜で見かけたラーメンの小池さん似の夫婦とすれ違う、日の出を見 に行ったのだろうか。また昨日北穂の頂上でえらく感激をしていたスイカ娘とすれ違い古関さんが声をかけたりしながらピクニック 山行といった感じ。北穂のテント場には霜柱がたっていた。もう山は秋だ。
 北穂-奥穂の分岐の看板がでてきて、ここを涸沢岳・奥穂方面への道をたどる。稜線へ出たとたん冷たい風が体を震わす。冷たい岩 が手を強張らす。
 縦走路をB沢に下りるところで古関さん・鎌田さんパーティーと別れ、先生と縦走路をさらに進む。ドームの頭の脇で登攀具を装 着中の2人組パーティーがいて、先生が2人組のおじさんに「今日はどこですか?」と聞くとおじさんが「たきだにぃ」と横柄な返事。 そんなもんは場所と格好でわかるっちゅーに。それでも先生は紳士的に「滝谷のどのルートですか?」と、やはり答えは中央稜、 残念ながら先行がいた。冷たい風が凌げるこの場所で先生と私もクライマーに変身。同時に腹ごしらえをしながら先行パーティーが行 くのを待つ。
 さらに縦走路を進み「奥穂→」と少し大きめの岩に書いてあるところを下ったコルから草付を右斜めに踏み後下る。ガレガレである。 途中クライムダウンを交えながら第3尾根上部を越え。さらに右にトラバースすると懸垂点。50Mロープ一本で懸垂し、バンドをドーム 壁に向かいトラバースすると取り付き点となる。ドームの頭の影でだいぶ待ったのに、先行パーティーはようやくザイルを結び合い取 り付こうとしているところ。しかもご丁寧に取り付きのテラスのところで大キジ様を撃ったらしく、真新しいものがころがっている。 失礼な!ドーム壁の向こうには、黄色いペアルックのカッパを着た古関さんが・鎌田さんとがいて、コール。雲表は崩壊していて登攀 不能とのこと。別ルートを行く模様。時計は8時を回っている。
 先生とザイルを出して先行が行くのを待つ。ここでもかなりの高度感。ひゃーといった感じ。先行のフォローが登りだしたところで、 取り付きで先生とザイルを結び、セルフをとって待機。1,2ピッチ目を先生リード、3,4,5ピッチ目を私がリードの予定。
 先行のフォローが1ピッチ目最後のチョックストーンに差し掛かったところで先生リードで登攀開始。 1ピッチ目はやや立ち気味の凹角。凹角はすいすい登れる。途中わざわざに後ろを振り返りながら高度感に慣れていく努力をする。 上部のチムニー内部は私のコンパクトボディーでも狭く、先生がすこしとどまって、悩んでいたチムニー奥のランニングを回収する のにひと苦労をし、フェースをトラバースし(お助けもさがっている)、チョックストーンの左のラインを思い切って登り、安定し ているが狭いテラスで一息。このテラスもチムニー状になっており思ったよりも高度感は無い。
 2ピッチ目、出だし岩のリッジを先生がリードし出してすぐに「目もくらむ高度感とはまさにこれだなー」、と一言、さらに「ここ でこんな高いのにホールドがよくないんだよなー」とも。なんだか体ががむずむずする。 1ピッチ目は最後までリードしている先生の姿が見えたが、このピッチはフェースを登りきると見えなくなる。しばらくして体が冷え てきたなと思うころ、ビレイ解除の声。
 フェースを思い切って、でも慎重に登り出す、ルートグレードD級・・・と思うと怖いので5.8とデシマルグレードで余裕、余裕、 と言い聞かせる。思ったよりもホールドも多く、しっかりとしていてするする登れる。怖いもの見たさに振り返ると滝谷の底が小さ く見え、左を見ると大キレットから南岳・大喰岳・槍ヶ岳のラインがきれいにみえる。うーんこんな高度感はあたりまえだが初めて!
 続いていよいよ本日の核心部、急なカンテを右から取り付く。岩はすっきりしているがなかなかしょっぱい。垂直を脳の芯で感じる。 落ちないだろうけど落ちれない・・・という意識から思い切ったムーブが出来ない、というか必要以上に慎重になりAOしながらカンテ を左足のフラットソールで巻き込み体を左に移しながら安定したスタンスに写る。結構必死!ここまで来ると先生の顔が見え、余裕も 出てきて、カメラを取り出しビレイする先生を一枚。2ピッチ目終了後、先生から4ピッチ目・5ピッチ目もW・D級だからリードは先 生がするとのお達し。
 3ピッチ目 ザイルを付けたまま岩稜を右回り気味に、私トップで4ピッチ目取り付きまで行く。下の大テラスのポカポカの陽だま りでビレイする先生が北アルプスの山々に囲まれ、かっこいい。
 4ピッチ目 先生が3ピッチ目を登ってきて、4ピッチ目に取り付く。出だしで「案外橋本でもいけるかな、行ってみるか?」 と聞かれるが高度感に少々ビビり気味で「行きます」の一声が出ない。結局先生にリードしてもらう。
 全体が逆層っぽくみえるがフリクションは抜群にきく。凹角からさらに一旦足場の安定した場所に出た後、さらに右の凹角にトラバ ース(このトラバースもスタンスが逆層でなかなかいやだった)。上部で突起した岩をつかみながら左にトラバース。ランニングを回 収しながら自分だったらどうランニングを取るのか勉強しながら登る。A0でチムニー、フェース写り、途中先生にこれはこうでいいん ですよねーと確認をしながら確実に登っていく。
 5ピッチ目 硬い凹角を左上しあっさり終了 時計は12時を少し回っていた。
 終了後左のふみ後をたどり縦走路へと向かう。先行パーティーが登攀具をしまっている。縦走路へ向かう途中、頭上から「よかった ー」のコール。古関さんが岩峰でフォローで上がってくる鎌田さんのビレイをしている。縦走路で緊張した面持ちの縦走者を見守りつ つ古関さん・鎌田さんが来るのを待つ。
 あとは縦走路を北穂への分岐までたどり、荷物をデポして先生と私は北穂頂上からドームを眺めにピストン。古関さん・鎌田さんは 先に下山。
 登ったルートを上から見下ろし夜のビールの旨味も増した。でもリードできなかったこと、いやしなかった自分に対し今でも後悔し てならない。先生と一緒だったので甘えが少し出た感があるのか、もっと自分に対して厳しく追い込みをしなくては。

  
   

('04-10/10)