山行報告


【山域・山名等】

唐沢岳 幕岩 西壁ルンゼ・S字ルート

【日時】

2001年10月05日(金)夜行〜10月08日(月)

【メンバー】

山下眞一、白根 武

【ルート】
05日(金)(22:00)あざみ野駅集合→(23:00)相模湖IC→(24:00)大月IC→(03:00)信濃大町→(04:00)七倉
06日(土)七倉(08:00)→(08:20)高瀬ダム下→(09:30)金時の滝上→(10:30)大町の宿 →(11:00)右稜のコル→(12:00)西壁ルンゼルート取付→(17:00)終了→(17:30)右稜の頭 →(20:00)大町の宿
07日(日)大町の宿(06:30)→(06:45)B沢→(08:20)トラバースルート取付→(10:30)黒い壁下 →(11:00)明峰ルート5P目→(13:00)大岩テラス→(15:30)終了→(16:30)右稜の頭→(18:00)大町の宿
08日(月)大町の宿(06:30)→(08:30)ダムサイト→(09:00)七倉→(10:00)市民浴場→(12:30)穂高 →(14:00)松本IC→(14:30)諏訪南IC→(17:30)勝沼IC→(20:30)あざみ野
【詳細】 10/05(金)
   21:00あざみ野集合の予定だったが地下鉄が車両故障とのことで22:00集合とする。遅れた時間 を取り戻すために調布インターから中央道に入ったが、談合坂で工事のため渋滞6kmとの表示。 正月に岳沢へ行ったときの暴走族渋滞を思い出す。大事を取って相模湖インターで降りて一般道 を大月へ。でも、実際にはあまり混んでいなかったみたいである。
 そんなこんなをしながら豊科インターで高速を降りて大町へ。ここで困った問題が1つ。ガソ リンの残りが少ない。七倉でガス欠になったら悲惨である。大町駅前でスタンドを探すもどこも 開いていない。仕方がないので駅前で客待ちをしていたタクシーの運ちゃんに聞くと、扇沢方面 に3kmほど行ったところに24hのスタンドがあるとのこと。ほっと一息。20Lほど給油して七倉へ。
 七倉ではテントを張っているグループも見受けられる。空きスペースに車を止めてさっさと寝 る。3時間くらいしか寝ることが出来ないのはこの年になるとつらい・・・。

 
  10/06(土)
   車の中に差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。快晴である。舟窪岳も上の方はナナカマドが真 っ赤に色づいている。唐沢岳幕岩も花崗岩の白と紅葉の赤でさぞかし美しいだろう。睡眠不足が 気になるが、ゆっくり朝食を取り出発する。高瀬ダムでは堰堤付近でトンネルの工事をしていて ダム下広場は砂や砂利置き場になっていた。唐沢にはいると先行の足跡が付いている。6時出発 の気合いの入ったパーティーがいるようだ。我々の後ろにも4人パーティーが続く。
 昨年来ているので、アプローチは順調である。それにしても、高巻きのアルミハシゴは昨年よ りさらにぐしゃぐしゃになっていて、冬の雪崩のすさまじさを物語っている。最近増水したらし くかなりの高さまで草が洗われている。壁の状態が気に掛かる。「金時の滝」の高巻きをふうふ う言いながらこなし、「ワシの滝」を登れば大町の宿も間近である。大町の宿には先行パーティ ーがツェルトを1張り張っていたが、水場の側が空いていたので我々もツェルトを張り場所取り をする。一息入れたら装備を付けて出発。

西壁ルンゼ
1P目・2P目(アプローチ)
 右稜のコルから下降ルンゼに向かって2P登るが、途中のスラブがベチョベチョに濡れている のでロープを付ける。山下が1P目、2P目は白根で懸垂ポイントをビレー点として右上して凹 角を登ると上の草付の中にビレー点がある。
3P目(アプローチ)
 右稜下降ルートから山下が右へ右へとトラバースする が、バンドの様なものは無く灌木の中を強引に抜ける。抜け出たところはかなり立ったルンゼで 上に凹角が見える。どうやらここが西壁ルンゼの取り付きの様である。トポにはピンが2本ある ように書いてあるが見あたらないので灌木でビレイする。
4P目(西壁ルンゼ1P目)
 白根がまだジョギングシューズなので山下がリードし、ピン2本とブッシュ1ヶ所で大テラスに出る。
5P目(西壁ルンゼ2P目)
 スラブは難しそうなので、白根は左のブッシュとのコンタクトラ インからさらに左のフェースにくい込む凹角に入るつもりがロープの流れが悪くなりそうで結局 垂直のブッシュを強引に乗り越す。
6P目(西壁ルンゼ3P目)
 傾斜はあまり無いがピンもあ まり無いスラブをランニング2本で登り、中央バンドの段差をクラックを利用してビレイ点へ。 傾斜があまり無く、思ったよりもフリクションが効く。
7P目(西壁ルンゼ4P目)
 ここからは傾斜が強くなる。さらに今回は草付から水が滴りベチョベ チョである。白根がトライするも、アブミからフリーに移るところで踏ん切りが付かず山下に交 代。何とか人工の部分をこなすが、ルンゼに入ってのフリーは傾斜も強い上にピンが無く精神衛 生上最悪。登山体系に出ていたエスケープのボルトラダーは雪崩で全部吹き飛んだらしく影も形 もない。
8P目(西壁ルンゼ5P目)
 白根がボルト3本登ってバンドに出て右上後左上してフレーク下へ。
9P目(西壁ルンゼ6P目)
 フレークはトポによるとフリーでも行ける様だが、 ジムでも5.10クライマーの山下にとっては本チャンで5.11なんてとんでもない。しっかりボルト ラダーを人工で越え、突き当たりの右上フェースも登って最後のクラック下へ。
10P目(西壁ルンゼ7P目)
 白根が本領発揮。ほんの7m位なのだがコケは生えていて滑るし、若干かぶって るしでなかなか悪い。フォローした山下もゴボウで登った。何にせよ薄暗くなった5時過ぎにや っと終了。体慣らしのはずが・・・。

 右稜の頭から懸垂1Pで下降ルンゼに入る頃にはヘッ電になってしまった。ガスもかかってき て下が見えない。はての無いような懸垂を繰り返し、あと2Pになったところでロープが足りな い。(ロープの結び目が木の根に引っかかるのを避けるために50mシングルで懸垂していた。) ブツブツ言いながらロープを足していると、今度はヘッ電がいきなり消えてしまった。どうもL EDは突然消えてしまうので困ったもんだ。白根に降りてきて貰い予備の電灯で次の懸垂ポイン トへ。次の最終ピッチもロープが足らない。あと5m位だと思うのだが電灯が弱くてガスの中で は先が見えない。ちょうどボルトがあったので(他にも足らなくなる人がいるのだろう)いった ん切って、ロープを付け替え降りてみたら足らないのはたった3mだった。(この最後の2Pは 後でトポを見たら両方とも30mと書いてあった。)
 暗い中をトボトボと大町の宿に帰ってみるとし−んと静まり返っている。先行パーティーはも う寝ているようなので音を立てないように行動食をむさぼり食って寝てしまう。(実はこのとき 先行パーティーは畠山ルートでビバークしていた。)

 
  10/07(日)
   前日遅かったせいかしっかり明るくなってから起床。今日はいよいよS字ルートへの挑戦であ る。すでにあちこちからコールがしている中、B沢へ下降して取り付き地点へと向かう。S字ル ートは取り付きが崩壊して登攀不能とのことなので隣の明峰ルートから登ろうと考えたがどうし ても取り付きが分からない。おそらくここだろうと思える所はあるのだが、残置支点が見あたら ない。1時間ほど悩んでいたが、他のパーティーが100mほど上流の初登時の草付に取り付いてい たので我々もそちらにする。

1P目
 大きなチョックストーンを越え取り付き点に行ってみると草付の中のスラブにバンド状クラッ クが入っている。どうやらそこを右上するようである。先行パーティーの人がトップに「あんま り上に行くんじゃない」と言っていたのを思い出しながら前方の灌木帯を目指す。しっかりした 灌木斜面でビレーっする。
2P目
 白根がさらに1Pロープをのばす。フォローしてみると途中から上の岩壁 に向かって登っている。まずいなーと思いながらビレー点へ。
3P目
 白根がビレーしている所からスラブを登るとどうも踏まれている様子がない。コリャ違うなと思 いながらも黒い壁に沿ってロープをのばす。
4P目
 白根が壁の基部沿いにロープを伸ばし末端で少し下降すると快適そうなスラ ブが広がっている。
5P目
 スラブに入ってみると10mほどクライムダウンした所にビレー点を 見つける。上を見上げるとボルトラダーが目に入ってきた。どうやら明峰ルートの5P目終了点 のようである。ここから20m懸垂下降すればS字ルートのテラスだが、先行パーティーが枯れ木 テラスあたりにいるのと大分時間を食ってしまったのとで、このまま明峰ルートを登り先行パー ティーを追い抜くこととする。明峰ルートのボルトラダーはしっかりしているものの間隔が若干 遠く、アブミの最上段に乗らないと次に届かない。傾斜がそれほどでもないのがせめてもの慰め である。
6P目
 白根がさらにボルトラダーをたどる。大分傾斜が落ちてきているのと、白根の 身長だと最上段に立たなくても次のピンが取れるので楽そうである。
7P目
 ブッシュ帯を抜けてると傾斜の落ちたスラブだが小川山の水晶スラブのように若干風化していて支点がほとんど無い。 結晶をつまみながら「滑らない」と自分に言い聞かせて登る。浅いルンゼを渡り快適そうな大岩 テラスへ。先行パーティーがまだいたが広いテラスなのでまぜて貰う。先行パーティーはガイド のスクールで、スクール生がリードしていてロープドラッグでロープが出なくなり泣きが入って いた。先行の出発を待って白根を迎える。
8P目
 白根リードで濡れた凹角フェースから振り子トラバ ースで浅い凹角へ。乾いていれば振り子トラバースをしなくても行けそうなピッチである。スラ ブを直上してビレー点へ。
9P目
 かなり立った凹角から快適なフェースへ。ここでタイムリミットの3時を過ぎたので正規ルート のクラックをあきらめる。
10P目
 先行パーティーを追いかけて草付フェースを左上してハングを回り込む。さすがにガイドは良くルートを知っている。
11P目
 さらに樹林帯を1P登ると5mほどのハングに突き当たる。灌木が生えていて下も斜面じゃないの で、白根が思い切ってフリーで乗り越す。ここで終了。

 ロープを外して先行パーティー を追いかける。何しろ上部緩傾斜帯のトラバースは初めてな上に、S字ルートは最も奥に位置す るルートなので踏み跡も薄くてルートが分からない。ガイドに付いて行ければ儲けものである。 正規のS字ルートの終了点でロープを畳んでいる先行パーティーに追いつく。どうやらルートは ほぼ水平に右に行くようだ。100mくらいで水の流れるルンゼ(おそらく畠山ルート付近の上部) を横断して上部の岩壁基部に沿って水平にトラバースする。さらに50mほど行ったあたりでもう 1本ルンゼを渡り、その100mほど先から木の間を縫うように登って行き、上の岩壁基部で右へト ラバース。ザレた斜面を下り開けたルンゼに入って行く。これが西壁ルンゼの上部で、200mほど 下降して右の斜面に上がると大凹角ルートの終了点となる。(暗くなったときは気を付けないと そのまま西壁ルンゼの終了点まで行ってしまい転落の危険性がある。)
 何とか明るい内に右稜の頭に着き先行パーティーが終了するのを待って懸垂にかかる。ダブル ロープで懸垂しても先行パーティーに追いついてしまうので昨日同様シングルで短く切りながら 懸垂する。明るいので懸垂支点がすぐ見つかり楽である。それでも最後の3P分を残してヘッ電 になる。昨日の件があるのでラスト前のピッチはダブルにし、最後のピッチは7mほど下の灌木 で切って2ピッチとした。無事コルに到着し終了。大町の宿に戻ってみるとお隣さんは酒を飲ん で良い気分になっていた。我々もゆっくりと夕食を取る。お隣さんは大阪の「ぽっぽ山岳会」と 言うところの人で、会の運営や実状について色々意見を交換して盛り上がった。かれらはこの冬 に畠山ルートを登るつもりのようである。ウ〜ン、元気!
 色々話をして9時に就寝。疲れていたので熟睡する。

 
  10/07(日)
   ゆっくり寝ているつもりが明け方の寒さで目が覚める。お隣さんは広島ルートに偵察に行く様 である。我々は指先の皮がむけて痛く、とてもそんな気にならない。ゆっくり食事をし、パッキ ングをして出発。ワシの滝を降りてしばらく行くと昨日のガイドのグループが休んでいた。昨日 の礼を言い、言葉を2・3交わして追い越す。指先の痛さで金時の滝の高巻きはフィックスロー プを掴むのにもヒーヒー言ってしまう。何とか無事下ってダムサイトに出る。空のタクシーがな かなか来ない。唐沢岳は上部がガスの中で幕岩は見えない。観光客も山が見えないのでは面白く ないだろう。ようやく来たタクシーの運ちゃんによると昨日は33回もダムとの間を往復し飯を 食う暇も無かったとのことである。七倉で車を乗り換え一路温泉へ。大町温泉郷の手前にある大 町市民浴場にいったが、一人300円なのは良いが石鹸もなくちょっと不便だった。やはり山の 帰りは、少々高くてもクアハウスの方がのんびり出来て良いようである。
 お風呂の後は飯で、一般道を走り穂高町でそば屋に入って十割蕎麦を賞味。キノコを買って帰 路につく。松本あたりまでは薄日も射していたが、甲府あたりからは雨となり、神奈川まで雨だ った。

来年こそはちゃんとS字ルートを登るぞ!! 

   

('02-06/16)